天然母貝が不足になった現在は、人が貝をつくります。人工採苗の順序は、先ず、優れた母貝を得るため、貝殻内面の色が美しい母貝、殻幅の厚い母貝を選びます。
アコヤガイの稚貝は雌雄同体ですが、成体は雌雄異体であるため、雌雄に分けます。雌貝の卵子を採集(採卵)し、雄貝の精子を採集(採精)して、人工交配を行います。
真珠養殖業者は、人工採苗されたアコヤ貝(約1mm)を、4月頃に仕入れます。
発生(孵化)した稚貝は、15~25日間ほど水槽の中で浮遊生活を送った後、定着生活にはいります。定着生活にはいる頃、「沖出しカゴ」に入れて9~10月頃に殻長が約10mmになるまで海で育成します。
沖出しした稚貝の成長は著しいため、貝の成長に合わせて大きい網目の「養殖カゴ」に入れ、それをイカダからつるして母貝の育成を行います。
3年目、5~6月に行われる挿核手術の準備として、母貝へ行う処理を「仕立て」といいます。挿核準備(「抑制」「卵抜き」、貝立て、栓さし)
【抑制・卵抜き】 2年目、10~11月
核は生殖巣の中に挿入されるため、生殖巣が卵でいっぱいの状態では挿核手術が困難になります。また、良質の珠ができなくなったり、脱核などが起きる原因になります。
そこで、人為的に「抑制」と「卵抜き」などの方法で、貝の生理活動の調整を行っています。抑制・卵止め」とは、秋から母貝をカゴで窮屈な状態で育成し、春の挿核まで活動を抑えて卵を成熟させない方法です。
「卵抜き」とは、母貝に刺激を与えて産卵させる方法で、5~6月に挿核する母貝にその方法を用います。
【貝立て】 3年目、4~5月
たとえば、開口器(開殻器)で無理矢理に貝殻を開けようとすれば、貝の閉じる力が強いために貝殻が割れたり、貝柱が切れたりします。そこで、挿核手術をするとき、貝殻をスムースに開けるために用意しておく作業です。
“貝立て”とは 、挿核の数時間前から貝立用の箱の中に、アコヤ貝を隙間無く立てる作業です。貝殻を開いて呼吸するため、こうして数時間にわたって貝の呼吸を苦しめた状態で、網カゴに入れて海中に吊るします。
挿核手術の直前に、数個の貝を箱から抜き取るか、海水を満たした水槽内に貝を解放します。すると、貝は呼吸するために貝殻を開く訳です。
【栓さし】
“栓さし”とは、母貝の貝殻を開けたままにしておくため、貝殻にくさび形の木の栓を挟む作業をいいます。この時、二枚貝の貝殻に開口器を入れてから、くさび形の木栓を差し込みます。
アコヤ貝の生殖巣に挿入する「ピース」と「核」の準備
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【ピース切り】
外套膜の切片・小片を「ピース」または「細胞」と呼びます。ピースを採取する母貝は、真珠質分泌の盛んな他の個体を使います。
【真珠核】
アコヤ真珠養殖に欠かせない核
真珠の中心になる核の材料は、主に、U.S.A.ミシシッピー川に生息しているイシガイ科の二枚貝を真円形(真球形)に削って、核に利用します。
サイズ:細厘珠(2mm未満)・厘珠(2.3~2.9mm)・小珠(3.3~4.9mm)・中珠(5.2~7.2mm)・大珠(7.5mm以上)
挿核手術は「核入れ」ともいいます。
アコヤ貝(雌雄)の生殖巣までピースと核を挿入して真珠袋を形成させる手術。この手術は高度な技術が必要です。
挿核手術、核入れは次の順序で行われます。
1)開口器で貝殻を少し開き、くさびを挟んで貝殻を開いたままにします。
2)生殖巣が確認できるまでヘラで鰓(えら)をよけます。メスで生殖巣の表面を少し切開します。
3)切開口から生殖巣にピースと核が入る導入路をつくります。
4)まず、ピース針でピースを挿入し、続いて核挿入器で核を移植します。挿入する核の大きさは、希望する真珠の大きさを考慮して決めます。
挿核するときは、必ず、ピースの表と核は密着させます。小珠の真珠をつくる場合は、核を2個挿入します。
沖出しした稚貝の成長は著しいため、貝の成長に合わせて大きい網目の「養殖カゴ」に入れ、それをイカダからつるして母貝の育成を行います。
挿核手術を行った母貝(手術貝)が、体力を回復するまでの間、養生します。10~20日の養生期間、手術貝をゆったりと「養生カゴ」に入れて、穏やかな海で安静に保ちます。
アコヤガイを養殖期間中、貝の掃除・養殖カゴ(100種以上)に貝の入れ替えなどの管理を、繰り返して行います。
貝掃除
アコヤ貝や養殖カゴに、海草・カキ・フジツボ・ホヤなどが付着すると網の目づまりとなるため、カゴの掃除、貝の掃除を繰り返して行います。
避寒作業
アコヤガイに好適な海水温は13~25度であるため、10℃以下になるとアコヤガイは死亡します。秋から冬の間は、暖かい海水域へイカダを移動して春を待ちます。
浜揚げ準備 4年目~
浜揚げする年には、真珠の色調と光沢を整えるための海域である「化粧巻き漁場」「仕上げ漁場」に移します。 真珠の採取時期の決定は、次の調査を行って決めます。
真珠貝を試しに剥いて「テリ(光沢)」「色」「巻き(真珠層の厚さ)」の出来具合を調べ、その結果で決定します。
養成している真珠の光沢は、秋から冬の間に良くなってピンク色を帯びると言われているため、11月~1月、真珠が最も美しい輝きのときに浜揚げが行われる。
浜揚げの行程
1.イカダから真珠カゴを引き揚げて、カゴからアコヤガイを取り出し、ナイフで貝柱を切って貝殻を開き、貝の身を剥きます。
2.真珠が大きいサイズは、貝肉から真珠を1粒ずつ取り出します。
3.貝柱は切り取って食用とします。
4.真珠が中サイズ以下は、粉砕機にかけて肉を細かく砕いたあと、海水で粉砕片を洗い流すと、機械の底に真珠が集まります。
5.粗塩と水を入れた珠みがき機で真珠の表面をみがいて水洗したあと、良品の真珠だけを集めて浜揚げが終わります。
浜揚げが終わると、商品になる珠と廃棄する珠に分け、商品珠は大きさ・色・形・キズなどで、様々の種類に選別します。真円になった「輝き」「色」「巻き」の優れた「花珠」の真珠は、ほんの一部(5%)しか生産されません。>
養殖期間中に全体の半数のアコヤ貝が死んでしまいます。また、真珠層を巻いていない珠(核の状態)が5%、さらに、不良真珠が17%あることから、商品価値のある良質以上の真珠収穫は全体の28%以下です。
良い真珠を採集できない訳は、1945年頃までは、核入れから浜揚げまで18カ月以上養殖をした。現在は、95%以上が核入れから浜揚げまで6~8カ月の養殖です。